ジュエリー原型は手作りか3D CADか|形・修正・複製で選ぶ
原型を手で彫るか3D CADで作るかは、形の性質と、あとで形を変える予定があるかで決めます。「CADのほうが安くて速い」とは限らず、形によって向き不向きが入れ替わります。
ゆらぎのある有機的な形や、手の跡を残した質感は手作り原型が得意です。左右対称、正確な寸法、細かい文字、石座(石を留める台座)、サイズ展開は3D CAD原型が得意です。
同じ形の追加生産は、どちらの原型でもゴム型を使って作れます。形の修正やサイズ違いを予定しているなら、形をデータで持てるCADが後から扱いやすくなります。
なお1個の特注(一点もの)でも、オリジナルの形には設計と原型の費用がかかります。
先に結論:形と「あとで変えるか」で選ぶ
原型とは、鋳造のもとになる最初の形のことです。ここで選んだ方法が、仕上がりの雰囲気と後からの直しやすさを左右します。
自分のデザインに当てはまる行を探してみてください。
| デザインの条件 | 向く原型 | 理由 |
|---|---|---|
| 植物・動物・溶けたような形など、曲面が不規則 | 手作り | 数値にしにくい形を、見ながら整えられる |
| 槌目や彫り跡など、手の質感を残したい | 手作り | 道具の跡がそのまま表情になる |
| 左右対称・幾何学模様・等間隔の並び | 3D CAD | 対称や間隔を数値でそろえられる |
| 小さな文字・ロゴ | 3D CAD | 線の太さと字形を均一に保てる |
| 決まった寸法の石を複数並べる | 3D CAD | 石の寸法に合わせて石座を設計できる |
| サイズ展開や、後日の修正の予定がある | 3D CAD | データ上で寸法や形を調整しやすい |
両方の列に当てはまるときは、どちらを優先したいかで決めます。「有機的な形だがサイズ展開もしたい」なら、手作りの形をあとでデータ化する方法もあります。
2つの原型の違い
手作り原型は、加工用のワックス(ろう)をヤスリや彫刻刀で削り出して作ります。3D CAD原型は、パソコン上で形を設計し、光造形(液体の樹脂を光で固める3Dプリンター)で出力します。
手作りには金属を直接削るなどの方法もあります。この記事では、主に手彫りのワックス原型と3D CAD原型を比べます。
どちらも、その後はロストワックス鋳造で金属に置き換えます。違いが出るのは次の点です。
| 比べる点 | 手彫りのワックス原型 | 3D CAD原型 |
|---|---|---|
| 形の確認 | 実物を手に取って見る | 画面で見て、出力物で確かめる |
| 部分的な修正 | ワックスを盛る・削る | データの該当箇所を直す |
| 全体の比率の変更 | 彫り直しになりやすい | データ上で調整しやすい |
| 作り直しのもと | 原型そのもの(鋳造すると失われる) | 設計データ |
| 苦手なこと | 厳密な対称や寸法をそろえること | 不規則な質感や手の跡 |
「もとが実物だけか、データもあるか」は、形を変えるときや原型を作り直すときに差が出るポイントです。同じ形をそのまま増やすだけなら、どちらもゴム型で複製できます。
当社(GEMILYA)では、手作り原型と3D CAD+光造形のどちらにも対応しています。方法ありきではなく、形に合わせて選べます。
手作り原型が向く形
手作り原型は、形を数値ではなく「見た目のバランス」で決めたいときに向きます。
- 葉・花・骨・波など、自然物をモチーフにした曲面
- 槌目やざらついた彫り跡、少しいびつな輪郭を魅力にしたいもの
- 形が1つずつ違う天然石に沿わせる、覆輪(石のまわりを金属で包む留め方)の枠
- 実物を触りながら、厚みや丸みを詰めていきたいもの
よくある失敗は、手作りに完全な左右対称や均一な線を求めることです。手で作る形にはわずかなゆらぎが出やすいため、厳密さが必要なら寸法や対称の条件を伝えてCADも候補に入れると進めやすくなります。
仕上がりの精度は、原型の方法だけでなく鋳造や研磨でも変わります。どちらの方法でも、必要な寸法・対称・質感を先に伝え、実物で確かめるのが確実です。
もう一つの失敗は、修正を重ねるうちに前の形へ戻れなくなることです。手作りの原型は途中の状態が残らないため、直す前に写真を撮っておくと比べやすくなります。
3D CAD原型が向く形
3D CAD原型は、寸法や配置を正確にそろえたいときに向きます。
- 左右対称のモチーフ、幾何学的なライン
- 小さな文字、ロゴ、数字
- メレ(小粒の石)を等間隔に並べる石座
- リングの号数違い、ペンダントの大小違いなど、同じ形の展開
- 差し込む・はめるなど、ほかの部品と寸法を合わせるもの
注意したいのは、画面の見え方と実物の差です。拡大表示では十分に見える細い線や薄い部分も、実寸では鋳造で欠けたり埋まったりすることがあります。
- 細部は、実寸に近い大きさで確認する
- 光造形の表面には細かな積層の段差が出ることがあり、仕上げで整える
- データを自分で作る場合はジュエリー3DCAD入門で入稿の基本を確認する
完成時の重さは使う地金によって変わるため、樹脂の出力物では大きさ・形・指への当たり方を確かめます。重さを含めた着け心地は、金属に置き換えた実物で確認します。
サイズ展開や追加生産を見越すとき
1個の特注で終わるか、あとで数量やサイズを増やすかで、選び方は変わります。複数個を作るときは、原型からゴム型(ワックスを何個も作るための型)を取るのが一般的です。
型の違いはアクセサリーの「型」の種類にまとめています。見落としやすいのは、ワックス原型は鋳造すると燃えてなくなることです。
| 予定 | 手彫りのワックス原型 | 3D CAD原型 |
|---|---|---|
| 1個の特注で終わる | ワックスをそのまま鋳造できる | 出力物をそのまま鋳造できる |
| 同じ形を後日また作る | 金属の原型やゴム型を残して複製する | 同じく複製でき、データから出力し直すこともできる |
| サイズ違いを増やす | サイズごとの作り直しになりやすい | データを調整して出力できる(石座・肉厚は個別に確認) |
1個のつもりで手彫りのワックスを鋳造すると、同じ形を作るもとが残りません。完成品から型を取り直すことはできますが、一般に工程を経るごとにわずかに縮みます。
同じ形の追加生産なら、CADでなくても金属の原型とゴム型があれば対応できます。CADの利点が大きく出るのは、形を直すときや、原型をデータから作り直すときです。
当社では原型を最終発注から6か月保管し、処分前にご連絡します(ご希望があれば返却)。ゴム型は使ううちに劣化し、原型から作り直す費用がかかることがあるため、詳しくは品質と進め方をご覧ください。
CADでも、号数を変えるときに全体を拡大縮小するだけでは済みません。石座・爪・肉厚は個別に確認し、石の寸法に合わせて保つ部分と変える部分を分けて設計します。
- 石座と爪:石の寸法は変わらないため、号数を変えても大きさを保つ
- 肉厚:細い号数で薄くなりすぎないか確認する
- 外周の模様:一周する模様は、号数によって間隔が変わる
模様については、サイズごとに模様の数を調整するか、間隔の変化を許すかを先に決めます。
手作りの形のままサイズ展開したい場合は、原型や完成品を3Dスキャンしてデータ化する方法もあります。質感の再現度は形によるため、3Dスキャンの解説もあわせてご覧ください。
ブランドとして型を増やしていくなら、最初の1型で原型の方法を決めておくと展開がそろいます。進め方はブランド立ち上げのページで紹介しています。
依頼時に伝えること
方法を自分で決めきれなくても、次の情報がそろえば形に合う原型を選べます。
- 作りたい数:1個の特注か、試作のあと数量を作るか
- サイズ展開:リングの号数や大小違いの予定
- 形の手がかり:スケッチ、参考画像、手元の実物
- 大事にしたい点:手の質感か、正確な対称や寸法か
- 文字・ロゴ:内容と、見せたい大きさ
- 石:種類と寸法、持ち込みの有無
- 手持ちのデータ:.3dm/.stl/.igs/.stp のいずれか
記入例です。
花モチーフのリング。花びらは手描きのようなゆらぎを残したい。号数は3サイズで展開予定。まず試作を1個作り、形を見てから数量を決めたい。
この例のように条件がぶつかる場合も、優先したい点を一言添えてもらえると判断が早くなります。
まとめ
- 原型の方法は、形の性質と「あとで変えるか」で選ぶ
- 有機的な形や手の質感は手作り、対称・文字・石座・サイズ展開は3D CADが向く
- 同じ形の追加生産はどちらもゴム型で複製でき、CADの利点は形の変更や再出力で出る
- 号数を変えるときは、石座・爪・肉厚を個別に確かめる
- 重さや細部は、樹脂の出力物だけでなく実寸・実物で確かめる