廃番商品を再生産する方法|原型が残っていない場合の進め方
売れ行きがよかった商品を、数年ぶりに復活させたい。
そう考えたときに立ちはだかるのが、「作れる状態が残っていない」という問題です。
製作を依頼していた工房が廃業した、担当者が代わって引き継ぎがなかった、原型を返却してもらったが所在がわからない。理由はさまざまです。
原型やデータがなくても、再生産の道が閉ざされるとは限りません。進め方は、手元に何が残っているかで決まります。
原型がなくても再生産はできる
結論から言うと、現物が1つ残っていれば作り直せる場合があります。
現物から形状を確認し、3DスキャンやCADで原型を作り直す方法です。
ジュエリーの製作は、原型から型を取り、鋳造するという流れです。
つまり必要なのは「原型として使える立体」であって、それが当時の原型そのものである必要はありません。
- 現物を3Dスキャンしてデータ化する
- データを整えて、原型を出力する
- そこからゴム型を作り、鋳造に進む
この道筋があるため、原型をなくしても、それだけで再生産をあきらめる必要はありません。
ただし、現物の摩耗や構造によっては、そのままの再現が難しいこともあります。
素材も確認が必要です。本体の鋳造に対応している地金は、シルバー925・K18・K10・プラチナ900・真鍮です(Pt950は要相談)。
当時の本体がステンレスやチタンだった場合、同じ素材では作れません。対応地金に変えるかどうかから検討します。
残っているものによって、手間とコストも変わります。
手元に何が残っているかで進め方が変わる
まず棚卸しをしてください。次のどれが残っているかで、話が変わります。
| 残っているもの | 進め方 |
|---|---|
| 3Dデータ | 形式・寸法・鋳造に向く形状かを確認して進める |
| 原型・ゴム型 | 型の状態を確認してから鋳造に進める |
| 現物のみ | スキャンしてデータ化してから進める |
| 写真・図面のみ | 寸法を決め直して作り直しに近い工程になる |
3Dデータの入稿形式は .3dm / .stl / .igs / .stp です。
古いデータは、寸法や肉厚が鋳造に向いているかを確かめてから使います。
現物しか残っていない場合は、スキャンしてデータ化するのが基本です。
在庫の最後の1つ、サンプル品、社内に残していた見本。複数あるなら、摩耗の少ないものを選ぶと形を再現しやすくなります。
写真しか残っていない場合も不可能ではありませんが、寸法が確定できないため、実質は新規デザインに近い工程になります。
なお型が残っていた場合も油断はできません。ゴム型には寿命があり、劣化していれば作り直しが必要です。詳しくは型の種類と使い分けで解説しています。
復刻でつまずきやすいところ
過去と同じものを作るはずが、思ったとおりにならない。その原因はだいたい決まっています。
- 現物が使用で摩耗していて、その状態を再現してしまう
- 当時と同じ素材が手配できない、または価格が大きく変わっている
- 当時の仕上げ(メッキの色や質感)の指定が記録に残っていない
- 石のサイズやグレードが当時と同じものを揃えられない
特に見落とされがちなのが、仕上げの記録です。
外観や3Dスキャンだけでは、当時のメッキの種類や膜厚までは確定できません。
当時の指示書や発注書が残っていないか、あわせて探しておくと再現の精度が上がります。記録が見つからない場合は、現物の状態から確認できる範囲を個別に判断します。
素材についても注意が必要です。
金やプラチナの相場は日々変動します。当時の売価をそのまま設定すると、利益が残らないことがあります。
復刻を決める前に、今の地金価格で原価を引き直しておくと判断を誤りません。当時の価格ではなく、今回の見積もりで確かめてください。
価格の組み立て方は料金の考え方にまとめています。
石も同じです。当時と同じグレード・サイズの石が同じ条件で揃うとは限らないため、代替案を先に用意しておくと止まりません。
復刻を機に見直しておきたいこと
せっかく作り直すなら、当時のままにしなくても構いません。
データ化してあれば、形の調整を検討しやすくなります。ただし変更の内容によっては、原型や型の作り直しが必要です。
| 見直せる点 | 検討の観点 |
|---|---|
| 重量 | 裏抜きで軽くすれば地金コストを下げられる。強度の確認が必要 |
| サイズ展開 | 当時より号数の幅を広げるか。号数ごとに原型・型が要る場合がある |
| 素材 | 価格帯に合わせて素材を変えた版を作るか。重量や色味が変わる |
変更するときは、強度・重量・石座・仕上げを1つずつ確認してから量産に進むと安心です。
復刻版と、現代版の2ラインにする考え方もあります。
当時のファンには同じものを、新しい顧客層には価格を抑えた素材違いを、という展開です。
復刻は、告知のしやすさも利点です。
「あの商品が戻ってきました」という文脈は、新商品よりも伝わりやすく、過去に買った顧客に届きます。
一度データにしておけば、次の追加生産では設計の手間を抑えられます。ただし原型の再出力や、劣化したゴム型の作り直しには費用がかかることがあります。
当社では原型を最終発注から6か月保管し、処分前にご連絡します(希望があれば返却します)。今回のように所在不明にしないよう、保管期限は控えておくと安心です。
原型の保管などの条件は品質と進め方に、追加生産の構造は追加生産の基礎で詳しく触れています。
権利のあるものは、権利者の許諾が前提
複製や改変をお受けできるのは、依頼者が権利を持つもの、または権利者の許諾があるものに限ります。
- ご依頼者ご自身が権利をお持ちの製品・デザイン
- 権利者から複製・改変の許諾を得ている製品・デザイン
必要な権利・許諾を確認できない複製・改変はお受けできません。ロゴやキャラクター、他社の商標が入る場合も許諾の確認が必要です。
他社製品を「参考」として持ち込む場合も、どこまでが参考でどこからが独自かを最初に整理しておくと安全です。
権利にあたるかどうかの法的な判断は、弁理士・弁護士にご相談ください。
まとめ
- 原型やデータがなくても、現物が残っていれば3DスキャンやCADで原型を作り直せる場合がある
- まず「3Dデータ・原型・現物・写真」のどれが残っているか棚卸しする
- 本体がステンレスやチタンだった場合は、対応地金への素材変更から検討する
- 摩耗の再現、今の相場での原価、仕上げの記録が、復刻でつまずきやすい点
- 重量やサイズ展開を見直すなら、原型・型の作り直しと強度の確認をセットで考える
残っている現物や資料は、発注仕様シートに書き出しておくと話が早く進みます。「これ、まだ作れますか」という段階でも、写真をお送りいただければ、再生産できる状態かを確認してお伝えします。